ダンデライオン【7】
2008 / 08 / 20 ( Wed ) 翌日も完全な自由行動だという話で(当たり前だ、高校生じゃあるまいし)、嵐山に行きたいところがある林さんに連れられ例によって四人でぞろぞろと出掛けることになった。
結局、昨夜の和泉さんの話は、彼自身の高校時代の馬鹿らしくかつ微笑ましいいエピソードで終了してしまった。さぞや深刻な告白になるだろうと踏んだ僕の予想は大幅に裏切られ、噂の真相や、或いは核心に触れるくらいはと期待半ばの気持ちも上手くはぐらかされた格好になった。 消化不良。まさにそんな気分で目を覚ました僕に対し、今日の和泉さんは至って爽やかで、いつも通り柔和だった。 「何かあったの?」 川沿いでいい香りを立てるせんべい屋の店先で、例によって楽しそうにはしゃぐ林さんと和泉さんの後ろ姿を眺めて、些か呆れ顔の三島さんがぽつんと言った。 「何かって何が」 「房本くんてさ?」 十月の京都は紅葉にはまだ少し早く、人のかげもどこかまばらだ。 「小学生の時通信簿に書かれなかった?理解力が足りないって」 「失礼な。高校生まで言われてましたよ」 「余計悪いじゃない」 林さんが人力車に乗ろうと言い出す。僕たち(僕と和泉さん)は丁重に辞退し、一時間後に駅前でおちあう約束をした。人力車は多くても、三人が限界らしい。 近くを散策しようと、僕たちはぶらぶら歩き出す。途中、爽やかな女性二人の笑い声に追い抜かれた。 隣を歩く和泉さんのの肩は僕の頭くらいの位置にある。悲しいかな、僕は一般男性に比べ若干身長が低い。 男が好きな訳じゃありません。 たまたま好きになった人が男だったわけでもありません。 和泉さんは昨夜そう言った。 割とがっちりした肩、少しだけ猫背だ。 「時間空いちゃいましたね」 鼻歌のような調子で和泉さんが言う。 「この先縁結びの神社があるらしいですよ。かなり由緒正しいやつ」 そんな所で男二人一体何をしようと言うのか。素直に答えれば和泉さんは確かにそうですね、とけらけら笑った。 「まあ暇ですし。他に何もないし」 香ばしい香りを立ててなにがしかの餅を売る甘味処の角を折れて小道に入る。風が吹く度竹の葉がさわさわと騒ぐ。 その神社は、小道を少し歩いた先にあった。竹林を抜ける風は涼しく、見上げれば僅かばかりの青い空が覗く。 社の前に立てば、二人とも妙に真剣な面持ちで手を合わせる。 「房本さんは」 一足先に結んだ手を解いた和泉さんは、僕が顔を上げるのを待ってこちらを見た。境内の気配は冷涼で、お互いの一挙手一投足さえ空気の流れで分かる。まさに針の落ちる音さえ、というやつだ。 「何をそんな真剣にお願いしていたんですか」 「いえ、特に」 「でしょうね」 くつくつと和泉さんが笑う。それは僕が神頼みなんてするタイプじゃないからなのか、普段から何も考えてなさそうということか。 どう考えても 後者でしか有り得ない。 「和泉さんは何かお願いしたんですか」 小道に出て、またふらふらと歩き出す。情けない話、自分が何処から来たのか既に分からない。こうなったらもう和泉さんについて歩くしかない。 「僕ですか?世界が滅びますようにって」 「は」 「勿論冗談です」 さわさわと吹き抜ける風が肌に涼しい。 会話が続かない。 僕は和泉さんが語り出すのを待つ。和泉さんはそんな僕をちらりと見ては、小さく笑うだけだった。 もうすぐ約束の時間がくる。 |

