だらだらと雑文。
100のお題 【クレヨン】


次の休みに、何処か遠くまで出かけよう、という話になった。
正直言ってそれほど乗り気な話ではなかったのだけれど、嬉しそうに話す篤志の顔を見て、結局裕太は何も言えなくなってしまったのだ。

お互いにそう遠出は好きではなかった。
が、出掛けてしまえば思い切りはしゃいでしまうのもお互いの特性で、それを思えば別に久々の外出も悪くないかな、などと思ってしまうのだ。

「何処まで行くの?」

教室の窓から吹き込む初夏の風は肌に柔らかい。
実は裕太は五月と言う季節が苦手で、木々が青く芽吹くのを見る度にげんなりしてしまう。
五月病じゃないの、と篤志は言うのだけれどそういったものとは少し違う。
そもそも四月の新生活から張り切ることもないのだ。

「じゃあさ、弁当とか持って行くね」

どうせ遠出と言っても電車か自転車で、しかも日帰りで行ける距離なんて高が知れている。
それでも篤志は嬉しそうに、天気がいいから公園でも行こうか、などと長閑に笑っている。

「何処まで行く気?」
「さあ?」

決めてないんだよ、という。
それが少し気に入った。
だから、篤志の提案を裕太は快く承諾したのだ。





生憎次の日曜は朝から雨で、裕太の部屋には少し不機嫌そうな顔の篤志がいる。
よほど退屈なのか、ベッドの上に乗り上げては裕太の枕を両端から掴んで引っ張っては元に戻し、そのまま枕を抱えて寝転んでしまった。

可哀相に、と思う。

裕太自身は別に、遠出やどうこうよりもこういう風にだらだらと過ごす休日の方が好きで、今日晴れようと雨が降ろうとそれほど気にもならなかったのだけれど、篤志は意気込んでいた分やはり少し、悲しかったらしい。
雨の音は単調で、カーテンを開けていても部屋の中は薄暗い。

水の中にいるみたいだ。

ぼんやりしているうちに、篤志は丸まったまま眠ってしまったらしい。
持ってきた鞄の中には、彼の母親が作ったらしい弁当の箱と水筒、それからコンビニエンスストアのビニール袋が入っている。
中を覗いてみると、まるで遠足のおやつみたいなお菓子がたくさん入っていた。

「晴れるといいね」

教室で、机の上に足を組んで座っていた篤志の嬉しそうな顔を思い出す。
こんなに楽しみにしていたのに、天候はまったく意地悪だ。

「何しに行くの?」

篤志があんまり嬉しそうだったので、裕太は少し呆れてそう聞いた。
すると篤志は、悪びれもせずに答えたのだ。

「遠足」
「…遠足?」
「そ、お弁当もって」

かたんかたん、と身体を使って机を揺らしていた。
そんなに暴れると後ろに倒れるぞ、と思ったけれど、篤志はそう言えばそんな失態を見せる事はない。
だからいつも、ちょっとだけ羨ましいと思う。

「…遠足かあ」
「あ、別に」

裕太の声は篤志の耳に、思ったよりも憂鬱そうに響いたらしい。
篤志は机から降りると、慌てて裕太の顔を覗きこんだ。

「遠足じゃなくてもいいんだけど」
「…じゃあ」
「え?」
「絵でも描こうかな、久し振りに」

最近テストやら行事やらで、好きな絵もあんまり描いていない。
思い出すと突然、篤志の『遠足』について行きたい気分でいっぱいになった。

「いいじゃん、俺が遠足で裕太が写生大会」
「大会?俺一人だけじゃんか」
「いいの。俺だって一人で遠足だもん」

残念だったなあ。

突然、そんな風に思った。
あんなに嬉しそうにして篤志もさることながら、心の中ではちょっぴりわくわくしていた自分も。
小学生の頃、遠足が雨で流れた時は確かにこんな気分になったものだ。

篤志は枕を抱えたまま眠っている。
それもそのはずで、今日はこの遠足の為に随分早起きをしたのに。

準備していた鞄の中からスケッチブックを取り出す。
えんぴつを構えて、考え直した。

今日は写生大会なんだから。

人のうちにまで来て熟睡している篤志の顔をスケッチしてやろう。
お昼までに完成させて、お昼になったら篤志を起こしてお弁当を一緒に食べよう。

自分の考えに一人で満足した裕太は、机の引き出しを開けて、小学生らしく昔使ったクレヨンを探した。




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ジャンル:小説・文学 テーマ:自作小説
2008⁄03⁄20 18:08 カテゴリー:100のお題 comment(0) trackback(0)
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