だらだらと雑文。
ダンデライオン【6】


脅えないでくださいよ。
昼間と同じように、でも昼間よりも幾分申し訳なさそうに和泉さんがそう言ったのは、夜の食事を終えて風呂から上がった後の事だった。
先輩たちはどこかに集まって宴会を開いているらしい。女性陣もやはり同じように宴会を開いているだろうか。確実に取り残された僕は、一人で散歩でもしようかな、などとぼんやり考えていた。
和泉さんは備え付けの浴衣ではなくジーンズにTシャツというラフな格好をしていた。
「脅えなくても大丈夫ですよ」
和泉さんはもう一度そう言って、少し笑った。
「心配しなくても襲いかかったりしませんし」
むしろそんな心配はしていない。それじゃただの色情狂じゃないか。僕がそう返せば、和泉さんはにやりと笑った。
「でも、例えば僕が女で、房本さんのすごい好みのタイプだったら、房本さんどうします?」
「襲いませんよ」
「房本さんに気がある風だったら?」
「…確認します」
「なるほどね」
やっぱり、和泉さんは少し笑った。笑うと目が細くなる。
「少し歩きに行きますけど」
和泉さんは財布を掴んで腰を浮かせる。まっすぐに伸びた背中。
川沿いの道は夜になると随分涼しかった。和泉さんも僕も、京都の地理にはまったく詳しくないから、川沿いから外れる勇気がない。
「鴨川って」
昼に三島さんたちと買ったという、ピルケースみたいな缶に入った金平糖をかじりながら和泉さんが呟いた。
「等間隔でカップルが並んでるって聞いたんですけど、いないですね」
「ほんとですね」
それ以上の会話の続きようもない。僕も勧められるがままに金平糖をかじる。ほんのりと、紅茶の味がした。
黙っているとさらさら流れる川音さえ聴こえそうだった。僕は和泉さんの少し後ろを歩く。
まっすぐに伸びた背中。
「僕は別に男が好きな訳じゃないですよ」
唐突に、和泉さんが言った。さらさらと川の音。
「…好きになった人がたまたま男だった訳でもありません」
振り向いた和泉さんは、街頭に灯り出されてその表情は奇妙に歪んで見えた。
泣くのかな。
ふとそんな風に思う。僕より年上で、僕より背も高いこの人を、何だかひどく脆いと思った。
「聞いてくれますか」
独白か弁解か、はたまた懺悔か。
彼の意図は汲めないけれど、僕は黙って頷いた。
月が丸くて、白い。




ジャンル:小説・文学 テーマ:自作小説
2008⁄07⁄31 09:19 カテゴリー:ダンデライオン comment(0) trackback(0)
▲pagetop










| HOME |

プロフィール

Author:鮎川聡子
だらだらと駄文を書いております。


最近の記事


最近のコメント


最近のトラックバック


月別アーカイブ


カテゴリー


ブロとも申請フォーム


カレンダー

06 | 2008/07 | 08
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

ブログ内検索


RSSフィード


リンク


Powered By FC2ブログ


▲pagetop



Copyright © 2008 それを愛だと呼ぶならば。. All Rights Reserved.
template by nekonomimige & blannoin photo by Encyclorecorder
[PR] 英会話 生命保険 アルバイト FC2ブログ 専門学校